5月19日(月)、「第120回社会保障審議会介護保険部会」が虎ノ門グローバルスクエア(東京都 港区)で開催され、NCCU染川朗会長がWEBで出席しました。
今回の議題は『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築や支援体制』と『介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援』の2つでした。今回も『2040年に向けたサービス提供体制のあり方検討会』の中間とりまとめ等も踏まえて議論されました。
●適切な措置を講じないままの配置基準の弾力化は負担増につながる
染川会長は、まず『人口減少・サービス需要の変化に応じたサービス提供体制の構築や支援体制』について、次のように発言しました。
「主な論点として示された中に、『配置基準等の弾力化』を前提とした項目が多くある。しかし、適切な措置を講じないまま、単に弾力化を進めるだけでは、介護職員の負担増加は避けられない。現場の組合員からも、介護保険事業所の管理者の兼務等について、負担が大き過ぎてやっていけないとの声が多くあがっている。
論点にも”配置基準の弾力化で配置減となる場合、労働負荷が増し、人材確保がさらに困難になることに留意が必要”とあるように、そうした懸念が現実とならないよう、慎重に判断するべき」
さらに、資料にグループホームの夜勤体制は“3ユニットに対し2名以上と緩和されている”とある点について、『令和3年度 認知症グループホームの例外的な夜勤職員体制の取扱いに関する調査研究事業報告書』を引用して発言。
「令和3年度では、3ユニットのグループホームは全体の6%に過ぎず、さらにその0.9%、わずか3施設しか3ユニット2人夜勤を導入していないとの結果が出ている。要件を緩和しても活用されなければ意味がない」と指摘し、慎重な検討を求めました。
●民間事業者が事業を継続可能となるような策を講じることが重要
次に、『2040年に向けたサービス提供体制のあり方検討会 中間とりまとめ』について言及。「サービス提供体制を確保するための支援体制構築するにあたって、前提として医療も含めた地域の介護サービス提供体制の状況をエリア別に“視える化”し、“地域での状況把握・分析・関係者間の共有・議論を行うことが必要である”とされている点は、NCCUが発言してきた、地域包括ケアシステムについて現状把握・評価するという意味で、提案内容と合致している」と評価。
そのうえで、「国もしっかりと関与・支援し、全体的な課題としての解決策を示してもらいたい」と述べました。
一方で、具体的な方向性に“市町村事業によるサービス提供などの検討”がある点については、「市町村事業を盛り込んだ理由が、民間の事業者による営利事業としての継続が困難なためだとすれば、まずは民間事業者が事業継続可能となるような策を講じることが重要である。仮に市町村が直接サービスを提供するとなると、公務員と民間介護職員の賃金水準の差を考えた場合、現在の介護報酬水準では独立事業として成り立たず、赤字の穴埋めのために、市町村が独自で介護保険以外の財源を投入する必要が生じるのであれば、もはや介護保険制度が機能していない。一定の介護サービス供給量を利用者に振り分けるような、措置の時代に逆行することが危惧される。なぜ民間事業として成り立たないのか、そこを突き詰めて対策しなければ、市町村事業に委ねるということは介護保険制度創設の意義が問われかねない」と指摘しました。
●3年に一度の改定では対応できない。速やかに他産業との処遇格差の解消を
染川会長は、次に『介護人材確保と職場環境改善・生産性向上、経営支援』について、次のように発言しました。
「示された資料に、“賃金の実態や経営実態のデータを踏まえつつ近年の物価高や賃上げに対応し、全産業平均の動向も注視した上で賃上げや処遇改善に取り組みを推進していくことが必要”とあるが、現状は他産業が人材不足を背景に大幅な賃上げを進めているなか、全産業平均との処遇格差が拡大し、確実に他産業への人材流失が増加している。介護人材が介護保険制度開始以来、初めて減少に転じている局面であり、あまりに対応が遅いといわざるを得ない。
もともと介護従事者の賃金水準は全産業平均との格差が大きく、動向を注視して判断せずとも連合や経営者団体が公表している情報等を鑑みれば、今まで処遇改善策として講じてきた施策では、格差拡大の一途を辿っているのは容易にわかるはず。人材不足により必要な介護保険サービスを提供できない事態が増加するなど、介護保険制度そのものに大きな悪影響が出ている。
現在の3年に一度の報酬改定という仕組みでは、昨今の物価上昇、他産業における賃金水準の上昇には対応できないことから、政府が把握している物価に関する統計や、賃金水準に関する統計、人事院勧告などを指標とし、毎年、物価上昇や人件費高騰への対応をしつつ、速やかに他産業との処遇格差の解消を進めていくべき」
●DXの成果として報酬請求後の支払い期日の短縮は経営支援として有効
最後に、DXについて次のように意見しました。
「デジタルテクノロジーの活用を進める以上、その恩恵をあらゆる面で享受できるようにすることも必要。介護報酬は請求から支払いに至るまでの期間が医療報酬と比較しても長く、経営の支障となっているとの声も多い。一方で、医療報酬は、レセプト電算処理システムによる請求で、支払期日が通常より5日間前倒しになっている。ぜひ介護分野でもDXの成果として報酬請求後の支払い期日の短縮に取り組んでもらいたい。昨今は介護事業者の倒産等も増加しており、支払期日の短縮は経営支援としても有効と考えられるため、前向きな検討を求めたい」
同部会では、現行必要な制度改正について、冬頃のとりまとめに向けて引き続き議論が行われます。NCCUは、各種調査結果や組合員の皆さんの声をもとに発言を続けていきます。
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今回の資料は第120回社会保障審議会介護保険部会|厚生労働省に掲載されています。